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シアーシャ・ローナン主演でベストセラー作家イアン・マキューアンの小説を映画化した『追想』のトークショーが先月7月26日(木)、東京・六本木の TSUTAYA TOKYO ROPPONGI にて開催。映画の脚本を務め、原作本「初夜」の著者でもあるイアン・マキューアンと彼の著書について翻訳家の小山太一さんとコラムニストの山崎まどかさんが濃厚なトークを繰り広げてくれました。

(予告編が流れ)こんな映画じゃないですよ(笑)
トークショーの頭に映画の予告編が流れると早速、小山さんが「映画の関係者には悪いんだけど、ゆるふわなキレイな部分ばかりまとめちゃって!という予告ですよね(笑)こんな映画じゃないですよ」と開口一番、正直な感想を口にすると、山崎さんも「たしかに」と賛同の声を上げます。物語について「この作品は半端な人たちの物語で、とてもとんちんかんなんです。はっきり言ってしまうとまぬけと言うべきか」と小山さんが言えば、山崎さんは「はっきり言ってしまうとそうなんですけど、でもコメディではなく、胸がキューっと痛くなる等身大の痛みを描いているんですよね」と補足しました。

”微妙”な人物を描き、物語にならない滑稽さが魅力
まず作者のイアン・マキューアンについて話が及びます。マキューアンは英国で権威のある文学賞の受賞経験があり、さらには毎年ノーベル文学賞の受賞も期待されているなど、まさしくイギリスを代表する人気作家であると説明。マキューアン作品を知り尽くす小山さんは、「マキューアン作品は時代とともに変化していて、大体3期に分けることができます。デビュー当初の第1期は、 クールでグロテスクで、ちょっと生意気な作風。いわゆる“アンファンテリブル”<恐るべき子供>と呼ばれていたんです。『時間のなかの子供』あたりから第2期に入り、私が翻訳した『贖罪』(※映画「つぐない」の原作)あたりまでは、人間の恐ろしさがテーマとなった重厚な人間ドラマを多く書くようになりました。その後の第3期は、物語に“軽み”が出てきたんです。下手な作家なら物語にはできないような、“微妙”な人物を主人公に、物語になるかならないかの瀬戸際の物語を書く。この映画の原作でもある『初夜』は第3期の作品で、まさに物語にならない滑稽さが魅力となっているんです」と、これまでのマキューアンの作風を振り返ります。

シアーシャ・ローナンは山田洋次映画のヒロインの風格が漂う
映画『追想』へと話題が移ると、山崎さんは「『つぐない』のシアーシャ・ローナンが再度マキューアンのヒロインを演じるというのは感慨深いですね」と前作へ思いを馳せ、小山さんは「あの幼い少女がこんなに大きくなっちゃって。と近所のおばさんのような気持ちになります」とこれまた正直な意見。続けて「彼女は絶妙に地味な感じがいいですね。西洋人なんだけど醤油顔で和風」と絶賛すると、山崎さんも「山田洋次映画のヒロインの風格がある」と同調しました。

時代の転換期1962年を絶妙に表現
1962年、性に対して開放的な考えが広まる前の時代が舞台となる本作だが、「原作では肉体的な表現が多い」と明かした山崎さん。「どうやって映画化するのか?と思ったら、映画はラブストーリーに重きをおいているんですよね。物語の舞台は1962年の春で、この年の秋にビートルズがデビューするので、まさしくスウィンギング・ロンドンの前夜を描いている」と説明。「世代的にいうと登場人物の2人はジョン・レノンと同い年ぐらい。フローレンスは中流階級で、まったくユースカルチャーに浸かっていない、いわば乗り遅れている人たち。マキューアンは1948年生まれで少し上の世代となるんですが、この乗り遅れた雰囲気をとても上手に描いていることに感動しました」とカルチャーを専門とする山崎さんならではの視点で感想を述べてくれました。小山さんは「この時代は個人の自由意志が尊重されはじめようとしていた頃。主人公は“自由になりたい”と願いながらも、自由意志の扱い方をまだよく分かっていなかったという。彼らは本当に世代の間にいたんですよね」と捉えていました。
小説のタイトル通り「初夜」が描かれる本作の性的な表現の違いについて話が及ぶと、山崎さんは「フローレンスは性的な行為に対しトラウマがあるのですが、その説明は原作では曖昧にぼやかされているんです。映画ではその表現がとても面白い。原作を既に読んだ人も、あとから読む人も『こう表現したんだ!』と新たな発見ができると思います」と具体的な例をあげます。これには小山さんも同意見で、「マキューアンという人は映画と小説というそれぞれの媒体を理解していて、ちゃんと使い分けていますね。問題のそのシーンは自由間接話法というテクニックを利用していて、翻訳者泣かせだと言われています」と技術的な話を展開。また原作の翻訳はかなりの薄味でおしゃれに訳していると明かし、小山流に濃い味に翻訳した文章を披露し、訳者によって印象が変わるというデモンストレーションを行ってみせ、客席からは拍手が沸き起こりました。

映画と原作どっちが先でも失望しない作品
実際にイアン・マキューアンに会ったという小山さんは「自宅でインタビューを行ったんだけど、とても紳士でしたよ。見た目は日本人作家、藤沢周平みたいな枯れ専にモテそうなかんじ(笑)こっちが10聞こうとすると11答えてくれる優しい方でした」と思い返すと、山崎さんは「彼は日本でも人気がありますので、日本に来たらみんな喜ぶ。ぜひ会ってみたい!」と目を輝かせました。イアン・マキューアンへの愛を1時間かけて熱く語ったお2人は最後に「原作と映画の両方を語れる機会はありそうでなかったので、とても楽しかった。映画と原作のどっちが先でも失望させない作品。映画は原作とは終わり方が違うのでその点でもどちらも楽しめる」と、見事に小説と映画を合わせて宣伝しイベントは幕を閉じました。

『追想』は 8 月 10 日(金)より、TOHO シネマズ シャンテ他にて公開です。


■登壇者プロフィール
小山太一
東大英文科卒業。ケント大学(英国)大学院修了。立教大学教授。専門は英文学、映画。著書に「The Novels of Anthony Powell:A Critical Study」イアン・マキューアン「愛の続き」「アムステルダム」「贖罪」「土曜日」、ジェイン・オースティン「自負と偏見」、トマス・ピンチョス「V.」(佐藤良明氏との共訳)など、訳書多数。

山崎まどか
コラムニスト。女子文化全般、海外カルチャーから、映画、文学までをテーマに執筆。著書に「オリーブ少女ライフ」(河出書房新 社)「女子とニューヨーク」(メディア総合研究所)「イノセント・ガールズ」(アスペクト)、共著に「ヤング・アダルトU.S.A.」 (DU BOOKS)、翻訳書にレナ・ダナムの「ありがちな女じゃない」(河出書房新社)など。新刊「優雅な読書が最高の復讐である」は、2004 年以降雑誌やウェブサイトで発表した読書エッセイの書評を収録している。

■ストーリー
1962年、夏。世界を席巻した英国ポップカルチャー「スウィンギング・ロンドン」が本格的に始まる前のロンドンは、依然として保守的な空気が社会を包んでいた。そんななか、若きバイオリニストのフローレンスは歴史学者を目指すエドワードと恋に落ち、人生をともに歩むことを決意する。結婚式を無事に終えた2人が新婚旅行として向かったのは、美しい自然に囲まれたドーセット州のチェジル・ビーチ。しかし、ホテルで2人きりになると、初夜を迎える緊張と興奮から、雰囲気は気まずくなるばかり。ついに口論となり、フローレンスはホテルを飛び出してしまうのだった。家庭環境や生い立ちがまるで違う2人であっても深く愛し合っていたが、愛しているからこそ生じてしまった“ボタンの掛け違い”。それは、今後の2人の人生を大きく左右する分かれ道となってしまう。フローレンスとエドワードにとって、生涯忘れることのできない初夜。その一部始終が明かされる…。

■コピーライト
© British Broadcasting Corporation/ Number 9 Films (Chesil) Limited 2017

■ 配給
東北新社
STAR CHANNEL MOVIES

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