芥川賞作家・朝吹真理子氏が感じる芸術的世界

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「きことわ」創作のきっかけ~

スーパーに買い物に行くときに、よくメモを取る。

自分でメモに書いた「卵」(7画目が下に伸びて長くなった字体)という文字をじっと見ていたら、真ん中から髪の長い女の子と短い女の子が背を向けている姿に見えた。Oeuf(仏語で同じく「卵」の意味)と(筆記体で)書いた文字がつながっているのを見て、背中合わせの少女の髪の毛がつながっているようなインスピレーションを感じ、二人の少女を描きたいと思った。

自分の指の動きや書いたメモが、小説へとつながっていく感じ。

~そして「TIMELESS」(新潮2016年1月号より)へ~

朝吹真理子氏(写真提供:山種美術館)

いりくちでくち」(※)の製作のために大分県国東半島に半年滞在した体験が「TIMELESS」へとつながります。作品は一つ一つ切り離せるものではなく、前作があって次の作品があるのだと。「うみ」という主人公が登場したことは国東半島で洞窟の中から見えた海の印象が強かったことも一つの要因だそうです。
滞在した部屋は、漁師が夜逃げしたいわくつきの家。台所ではキクガシラコウモリを飼っている状況で、部屋には子供の霊が出ると言われ(ラッキーにも出会いはなかった)、6人雑魚寝の場所では皆の夢がつながっていく様に感じた、そうです。

朝吹氏は小説の執筆にあたって「イメージボード」を作り、そこに色々な資料を貼って創作のアイディアを練ります。イメージボード自体には、朝吹氏が好きでたまらないというブルーシートが使われます。『ブルーシートの化学繊維に使われている青がとても綺麗で、安っぽく褪せて白くなっていく辺りも好き』なのだそうです。
好きが高じてブルーシートでタープを作り、夏に汗だくでタープの中で作業をしたとか。冬は暖房の熱で火事になると困るので、冬はタープ内にこもるのは諦めて、いつでもブルーシートを眺められてイメージが湧くように、ブルーシートを貼りつけた壁や部屋の家具などにそこにメモや写真、コピーなどをぺたぺたと貼っているのだと、ご紹介頂きました。

滞在した部屋にもイメージボードを用意しましたが、『部屋全体がイメージボードだった』『東京と国東半島を行き来することが、創作の中に潜水するような感じを覚えた』そうです。

滞在期間中に廃屋で映した82歳のおばあさんの映像からは、当時沢山の人がいて生きていた気配が感じられる。一方で、今生きている時間があって、過去の時間と今の時間が多層的に流れている―そこにtimeless-を感じる。

また、草を燃やしていると東京では見られない沢山の煙とともにその匂いが、(イメージボードに貼られた)酒井抱一の《秋草鶉図屏風》(重要美術品、山種美術館蔵)に重なっていて一緒に残っていると感じる。ここは、明治期まで水上交通が主体だった場所で、船に乗って白無垢で嫁入りした時間や、修験者が修行をしていた時間、百済と交流していた時間など昔の時間がそれぞれに残っている―そこにtimeless-を感じる。

トンネルの写真(「いりくちでくち」DVD表紙)に写る女の子が、トンネルを奥に歩いていくと遠くの方で子供から少女になる気がして―そこにtimeless-不思議に感じる。

イメージボードに貼る手が、離れた手が、小説を書く手に変わる。

朝吹真理子氏(写真提供:山種美術館)

最後に「TIMELESS」の第一話(《秋草鶉図屏風》がインスピレーションのもとになっている箇所)を朝吹氏ご自身に朗読していただきました。ホール内を薄暗くして、朝吹氏の独特の感性から流れ出てくる言葉に、皆酔いしれていました。

『鉱物の雲母が好き。割れて消えていってしまうようなものが書きたい。』とおっしゃっていました。お話をお聞きして、小説の域を超えてもはや芸術作品なのだと感じました。

「TIMELESS」はあと2話を残して完結(21017/9/9時点)。

今後も芸術家「朝吹真理子」氏の活動が楽しみです!!

※いりくちでくち 2012年秋、国東半島アートプロジェクトにて発表され、数百名のキャンセル待ちが出るほど話題となったアートツアー。演出家・飴屋法水氏と小説家・朝吹真理子氏をはじめとするメンバーが国東半島の一軒家に滞在し、共同生活を送りながら製作された。

読書ログで朝吹真理子さんの作品をチェック!

第144回 芥川龍之介賞 受賞作「きことわ」の評価・感想をチェック
http://www.dokusho-log.com/b/4103284625/

第20回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作「流跡」の評価・感想をチェック
http://www.dokusho-log.com/b/4103284617/

朝吹真理子さんの作品一覧。最新作はここでチェック
http://www.dokusho-log.com/a/01214235/

【関連展覧会情報】

【企画展】上村松園―美人画の精華
会期:2017年8月29日(火)~10月22日(日) *会期中、一部展示替えあり
会場:山種美術館  主催:山種美術館、日本経済新聞社
URL:http://www.yamatane-museum.jp/exh/2017/uemurashoen.html

【関連特集記事】

美人画と文学で識る古今女性の美 ~山種美術館「上村松園 -美人画の精華-」 展 ~
URL: http://tokushu.dokusho-log.com/special/301.html

「描かれた女性」にフォーカスした展覧会と関連したイベントを企画する山種美術館さんにお話をおうかがい、
画家として明治から大正、昭和に足跡を残した女性画家・上村松園(うえむらしょうえん)に注目しています。


取材協力
2017/9/9 朝吹真理子様、山種美術館様


【特集一覧へ】


 





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