「カワイイ」の元祖・松本かつぢ ~「松本かつぢ×ニジノ絵本屋」7つの絵本プロジェクト~

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今月の課題図書『ふしぎの国のアリス』はもう読んで頂けましたでしょうか。誰もが知っているアリスの世界、改めて読んでみると作者ルイス・キャロルの言葉遊びやかわいらしい挿絵など見所も様々です。今回は、昭和を代表する少女漫画・叙情画の作家である松本かつぢさんの『原画』を基にアリスの絵本を出版されたニジノ絵本屋代表いしいあやさんと松本かつぢ資料館を運営しているかつぢさんの三女・宇津原充地栄さんにお話を伺いました。

「松本かつぢ×ニジノ絵本屋」7つの絵本プロジェクトとは

――「松本かつぢ×ニジノ絵本屋」7つの絵本プロジェクトについて教えてください。

(いしいさん)
昭和を代表する少女漫画・叙情画の作家である松本かつぢさんは、没後30年が経つ現在も多くのファンに愛され続けています。ニジノ絵本屋では“レインボーカラー”の数の7にちなみ、数あるかつぢさんの作品の中から7つの絵本を、『原画』にもとづいて発刊するプロジェクトを起ち上げました。その記念すべき第1弾が「ふしぎの国のアリス」です。50年以上前に描かれた絵本『原画』を忠実に、現代版として再出版します。デザイン・装丁・製本、すべてをこだわり抜いて制作しました。

好評発売中の「ふしぎの国のアリス」

――プロジェクト発足のきっかけを教えてください。

(いしいさん)
私と充地栄さんの出会いは3年くらい前に遡ります。偶然にも家族を介して出会い、その時はかつぢさんのことを知りませんでした。当 時開かれていた個展を観て、さらにこちらの資料館へ足を運び作品に触れると、純粋に「カワイイ!!」と感激し瞬く間にファンになりました。さらに、50年以上前のアリスの『原画』と講談社のゴールデン絵本が飾ってあり、同じアリスでも全く色味が違うことに驚きました。私たちは出版も販売もしているので、いつかこの『原画』で作られた絵本を取り扱うことができればいいなと。しかし、なかなかその機会が訪れることがなく数年が経ち、今回思い切って充地栄さんに相談し、プロジェクトをスタートさせました。クラウドファンディングで資金を募ったのですが、目標金額を超える支援が集まり、かつぢさんの人気を目の当たりにしました。さらに、現役の漫画家、画家、イラストレーターなどクリエイターの方の支援が非常に多くて、知れば知るほどかつぢさんの偉大さに驚いています。

――『原画』がキレイに残されていますね。

(宇津原さん)
かつぢは身の回りを綺麗にしている人でしたので、大切に保管していたのだと思いますが、2回目の病気で倒れた後に、庭の焚火で『原画』を燃やしていました。どの程度燃えたかはわかりませんが、母が見つけて慌てて確保しました。その後、兄がプロにお願いして板張りをし、額装で保管してくれていたので、50年以上が経過している割には綺麗に保管されています。

(いしいさん)
今回のプロジェクトは『原画』にこだわっています。今まで見たことのある『原画』には、ホワイトと呼ばれる修正が入っていることが意外と多いのですが、かつぢさんの作品は一発描きの線なんです。現在はコンピューターで描かれるのが一般的ですので、このアナログの修正の入っていない『原画』は非常に貴重なものだと感じています。私の場合、単純に「カワイイ」という動機がきっかけですが、現役のクリエイターの方など専門家にとってもかつぢさんの構図やデザインは貴重な資産だと思います。

かつぢさん原作のアリス

当時発売されていたアリス

――制作秘話などがあれば教えてください。

(宇津原さん)
絵に関してはこちらに権利があるのですが、文章には原作者の著作権が残っていました。そこで、絵に合わせてオリジナルのテキストを作りました。また、あやさんがバイリンガルにしたいということでしたので、英文と和文ともに私の娘(かつぢの孫娘)が担当しました。
ゴールド絵本が販売された頃の話は誰に聞いても分からないのですが、色がきつい印象があります。その方が当時のウケが良いということなのでしょうが、かつぢの絵は柔らかい雰囲気の色が特徴です。今回の絵本でもその風合いを出すために、印刷を依頼した台湾の工場にあやさんと学童舎の川口さんと3人で色調整をしてきました。小さな町工場をイメージしていたら、オフィスビルに入居していて設備も素晴らしく、台湾の印刷技術の高さに驚きました。なかなかできない経験ができて楽しかったですね。

「カワイイ」の元祖・松本かつぢさんとは

――松本かつぢさんについて教えてください。

(宇津原さん)
松本かつぢは一言で表現することが難しい作家なのですが、現在の言葉にするとマルチクリエイターでしょうか。挿絵、漫画、童画、グッズなど数多くの作品を手掛けました。中学在学中、家計を助けるために雑誌のカット描きのアルバイトを始め、のちに少女雑誌で挿絵画家としてデビュー。エキゾティックで繊細な美少女画で頭角を現すと、やがて抒情的な中にもはつらつとした明るさを持つ新しいタイプの少女画を確立し、高畠華宵、蕗谷虹児らに続く次世代の画家として中原淳一と人気を二分しました。加えてユーモアタッチの挿絵やコミカルな漫画にも挑戦し、対照的な画風を自由自在に操り、既存の画家にはないマルチな画才を示して新境地を開拓しました。昭和13年(1938)には少女漫画の先駆け的作品である『くるくるクルミちゃん』の連載を開始。同作品は35年もの長期連載となっただけでなく、愛すべきキャラクターとして定着するや次々とグッズ化され、日本の少女向けキャラクターグッズの元祖となりました。
また、戦前からディズニーアニメに関心を寄せて作品に取り入れたり、昭和30年代(1955)からは童画の仕事やベビーグッズの企画・制作も手がけ、コンビから発売されたベビー食器は大ヒット商品となりました。他にも、かつぢが度々登場するマンガ『フイチン再見!』や『JIN-仁-』の作者でもある村上もとか先生には「私たちの世代では、生活の中にかつぢさんの作品が沢山あった」とおっしゃって下さいました。

――多くのクリエイターに影響を与えてきたのではないでしょうか。

(宇津原さん)
かつぢには生涯で二人のお弟子さんがいて、一人は『フイチンさん』で知られる元祖女性漫画家の上田としこさん、もう一人はイラストレーターとして活躍されている田村セツコさんです。
手塚治虫さんは1953年に『リボンの騎士』を発表されていますが、かつぢがそれより20年も前に発表した『?(なぞ)のクローバー』は『リボンの騎士』の原型ではないかと言われている、いわば知る人ぞ知る作品です。これは雑誌の付録としてかつぢが描いたもので、現存しているのは3冊しかなく、復刊を願っているのですが(笑)。当時、手塚さんは幼かったはずなので、リアルタイムで見ていたかどうかは定かではありませんが、影響を受けているのではないかと言われています。
それから漫画コラムニストの夏目房之介さんにかつぢの作品を弥生美術館で展示してあるのをご覧頂いた際には、「コマの割り方、読ませ方が素晴らしい。1つのページで全てを物語っている。」と絶賛して下さいました。

――前例がない中でかつぢ氏はどのように作品を生み出し、またどのような生活を送っていたのですか?

(宇津原さん)
海外の作品などをよく研究していたのだと思います。実際に海外へ行ったのは後半ですが、丸善の絵本フェアには必ず行って、沢山の本を購入していました。非常に勉強家で、小さい時によく一緒に連れて行ってもらったのを覚えています。
父は規則正しい人で、朝8時に起きて朝食を食べてすぐ仕事を始めます。10時になるとおやつを食べてコーヒーを飲み、12時にきちっとテーブルに座り昼食を取ります。そしてまた集中して描いて、夕方になるとふらっと散歩に出て息抜きをしていました。散歩から戻るとおやつを食べてまた描いて、18時から夕食をとります。食後は少しくつろいでテレビや落語をみて、私たちが寝る頃になると再び描き始めて、朝方まで仕事をしていました。とにかく仕事漬けの人でした。

――時間に正確で、厳しい方だったのでしょうか。

(宇津原さん)
「勉強しなさい」など何かをしなさいと言われたことはありません。お茶碗の持ち方、喋り方など、しつけや行儀については言われましたが、勉強には一切ありませんでした。それぞれが楽しそうにしているのが一番好きで、やりたいことをどんどんやりなさいというタイプでした。
お弟子さんだったお二人にも特に絵を教えることはなく、描けたら持って来なさいと伝え、絵を描き溜めては持ってきての繰り返しで特にダメ出しはしなかったようです。もう大丈夫かなとなると、「ちょっと小学館まで行くから一緒に行こう」という形で紹介してあげたりしたようで、現在の師匠と弟子の関係とは大分違うのかもしれません。

今後に向けて

――今後に向けて抱負を教えてください。

(宇津原さん)
私はこのまま細々と展示をしていけたらいいなと考えています。あとは、あやさんのような若い方が何か形にしていってくれたら父も喜ぶかなと感じますね。今はすごく喜んでいると思います。非常に子供を愛した人なので、子供たちのためにかつぢが残したものが役立つのであれば、これほど嬉しいことはありません。

(いしいさん)
私たちは絵本屋ですので、ただ作るだけではなく、色々な形で絵本を届けることができると考えています。こらからも充地栄さんを始め皆さんと一緒に楽しく、喜びを分かち合いながら進めていきたいと思っています。「仕事」というより、とにかく松本かつぢさんや充地栄さんのことが好きで、携わっている方が多いです。携わる皆さんが、マルチで素敵な方が多いので、具体的に決めている計画があるわけではないですが、皆さんと一緒に様々なことに挑戦していきたいと考えています。


(編集部より)
様々な作品に挑戦し続けた松本かつぢさんの作品をご家族が大切にし、その可愛さに魅せられた仲間がかつぢさんの魂を引き継ぎ自由に挑戦をしていく。かつぢさんの「カワイイ」が、時代を超えて永遠に受け継がれていくことを応援しています。

関連情報

『松本かつぢ・昭和のかわいい』展

ブックハウスカフェ(東京都神保町)

2018年3月29日ー2018年4月8日

公式サイト:https://www.bookhousecafe.jp/

『松本かつぢ かわいい!づくし』

とちぎの蔵の街美術館(栃木県栃木市)

2018年4月17日ー2018年7月16日

公式サイト:http://www.city.tochigi.lg.jp/hp/menu000004000/hpg000003590.htm

『松本かつぢ資料館』(東京都世田谷区)

※開館日など詳細は公式HPをご確認ください。オリジナルグッズも販売中。

公式サイト:http://katsudi.com/service/

『ニジノ絵本屋』(東京都目黒区)

「ふしぎの国のアリス」好評発売中!

公式サイト:http://nijinoehonya.com/online-shop/alices-adventures-in-wonderland

<終了>『マルチクリエーター松本かつぢの世界展』

宝塚市立手塚治虫記念館(兵庫県宝塚市)

2016年10月28日ー2017年2月20日

<終了>蕗谷虹児・中原淳一・松本かつぢ展『乙女たちの夢とあこがれ』

蕗谷虹児記念館(新潟県新発田市)

2017年3月25日-2017年6月25日

<終了>松本かつぢ『不思議の国のアリス』展

江東区森下文化センター(東京都江東区)

2017年12月16日-2017年12月26日

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